Ti入りインゴットを使って安く済ませたい

「Ti入りインゴットを買って、Bだけ添加すればいいのでは?」

という質問を受けたことがあります.コストメリットを追求したいと

Ti-B添加材はアルミ母合金にTiB₂をあらかじめ配合したもの、ということはおさらいしておきます.確かにTiを0.1〜0.15%程度配合したインゴットも販売されてますし、Bも入手できます.安くしたいということだと思いますが、そうですね…

溶湯内で狙ってTiB₂を化合させられるんしょうか

ホウ素(β型)は融点が約2076℃ですので(工業品の非結晶ホウ素では融点が異なることがあります)700℃では熔解(融解=melt)はしません.ホウ素はアルミ溶湯中でじわじわと溶解(dissolve)します.ホウ素が全体に均一に混ざるまでに様々な反応が進行してしまい粗大粒子が生まれそうです.その反応で、TiB₂に必ずしもなるとは限らず、不良の元になる化合物もできそうです(試したわけではありません).

化学的には可能っぽいですが、

B単体添加では、溶解したとしても反応性や分散性の点で実用管理が難しいと思われます.Ti入りインゴットを買ってBを添加.安定せず、労力の割に報われないと思います.温度と攪拌スピード、時間を特定するところから始めるところからスタートです.熱分析装置があればできるかもしれません.うまく行ったら教えてください.


【解説】「融解(熔解)」と「溶解」は違う

比重の議論でよく起こる誤解

アルミ鋳造の現場では、インゴットが炉の中で、AlもSiも「とけた」ように見えますしかし、材料工学的には「とける」には二種類あります.この違いを理解すると、とけた SiやBは浮くのか沈むのかが判断できるようになります.また、Ti-B微細化材はなぜ効くのかといった話も整理しやすくなります.

融解(melt)とは

融解とは、固体が液体になることです.例えばアルミインゴットは約660℃で固体(固相)Alから液体(液相)Alになります.これは融解、英語ではmeltです.

同様に、氷 → 水も融解です.

溶解(dissolve)とは

一方で溶解とは、別の液体の中へ原子や分子として取り込まれることです.例えば砂糖水や塩水です.砂糖 C12H22O11(固体)融点がだいたい185℃ですが、水へとけて砂糖水となります.このとき砂糖は液体になったわけではありません.

砂糖分子が水中へ分散しただけです.英語ではdissolveです.


Siは融解する?溶解する?

少し脱線します.例えばSiの融点は約1414℃です.しかしインゴットに含まれるSiは680〜700℃程度の設定で"とかし"ます.この温度ではSiは融解していません.

アルミインゴットに含まれるSiは、"とかす"とアルミ溶湯へ取り込まれます.

・Siは融解/熔解(Melt)していない
・しかし溶解(dissolve)している

のです.

このように、融解と溶解は全く別の現象です.

・融解(melt)=固体が液体になる
・溶解(dissolve)=液体中へ原子として取り込まれる

比重の議論でよくある誤解

「液体Siは比重がアルミ溶湯(2.37g/cm3)より重い(2.57g/cm3)から沈む」は本当か?

液相のSiと溶存Siは別物です

「Siはアルミより重いから沈むのでは?」という説明を耳にすることがあります.確かに数値だけを見るとそのように思えるかもしれません.

実際には「液体Si」と「溶存Si」を区別して考える必要があります.

溶存Siになると比重の議論はできない

アルミ合金インゴットが"とける"ときに、Siは溶解(dissolve)しています.液相のSiではなく、原子レベルでアルミ溶湯中へ分散しています.この状態を溶存Siと言います

溶存Siになると、もはや「Siの比重は2.57だから沈む」という考え方は成立しません.なぜなら、Siだけが独立した液滴として存在していないからです.

もう一度砂糖の例を考えてみましょう.

液相砂糖の比重は、糖度10%で5℃の場合で1.04です.長時間冷蔵庫に保管していた甘い清涼飲料水の底だけが甘いということは実体験でもないはずです.

アルミ溶湯中のSiも同じです.十分に「溶解」した後は、Si原子がアルミ液相の一部になっているため比重差による沈降を考えることはできません.

但し、インゴットの製造段階で十分に時間をかけて溶解していないものがありますので、その場合はSiの状態が粗い、未溶解Siが混じったもの(溶湯中で舞うけれど、完全に溶解していない)があります.この場合は固相Si(2.329g/cm3)と液相Al(2.375g/cm3)と比重が近いため製品に入ってしまいます.

溶存SiでなければAlの結晶格子に入れません(=固溶しない)ので、このようなインゴットを使っていると強度が出ません.当社ではスターラーを用いて満遍なく溶存Siが分散したアルミ合金インゴットを販売しています(お問い合わせください)

さて、TiB2は「溶解」も「融解」もしていません.固体粒子のまま添加直後はアルミ溶湯中に分散しています.良質なTi-Bでは超微細粒子なので沈降しにくはなってしますが、比重差により時間をかければ沈降したり凝集することもあります.不純物が多いとスラッジとして塊になり沈みます.これらは酸化膜などを含んで凝集して沈降していることも多いため攪拌して舞い上げても活性は低い可能性があります.

そのため、残湯運用している溶湯に、活性のある6Ti-2.62B(TiB₂)を入れてあげると再び凝固挙動が安定するというわけです.TiB₂添加でも微細化できなければ、Tiが不十分かSi被毒が起きている可能性がある、という訳です.


Al-10w%B

「それならば、Al-10w%Bを添加して炉の中でTiB2を生成させてはどうか」

という方もいそうですね.

これもあまり知られていませんが、B単体を配合している訳ではありません.Al-10w%Bは、すでにホウ素がアルミと反応した AlB2やAlB12という細かなアルミホウ化物の粒子(結晶)として配合しています.

これを700℃のアルミ溶湯に入れると、ベースであるアルミ部分はすみやかに熔解し、中に閉じ込められていた アルミホウ化物の粒子が溶湯中へフワッと解放(分散)されます.解放された AlB2粒子等が、溶湯中に余っているチタン(Ti)と出会うことで、条件しだいでTiB2へ置き換わり(置換反応)良い結晶核生成サイトが生まれる可能性はあります(条件依存です).B(ホウ素)単体を添加するより、ありです.

とはいえ、もしかしたら安く微細化できるのかも知れませんが、溶かしてちゃぷちゃぷと混ぜるだけだと、5Ti-1Bと同等に安定するとは思えません.速度論的な条件(=温度と時間と攪拌)への依存が高く、TiB2へ都合よく均一置換されない可能性があるからです.多少なりとも偏析しているでしょう.温度や混ぜ方、混ぜる時間や速度などの条件を特定する必要はありそうです.それには熱分析装置が必須です


6Ti-2.62B

「それならばTi配合のインゴットを買って、6Ti-2.62B(5-1と違ってTiが僅か)を添加すれば?」と言う方はいないと思いますが、一応

TiB2だけ供給して、あとはインゴット由来のTiを使えばいいのかというと.0.1%TiインゴットのTiがそのままあまりますので、Ti過多による不良が起きそうです.


5Ti-1B

当社で5Ti-1Bをおすすめしているのはこういった理由です.

「5Ti-1Bを勧めるのは売りたいからでしょ」と内心思われるんだと思います.「解決策は5Ti-1Bです」と言われても「他にないの?」とも感じるでしょう

当社が5-1のTi-Bを勧めるときは、それが最安最短ルートだからです.

上述のとおり、安く済ませたいお気持ちはわかりますが、管理が難しかったり、「Ti入りのインゴットだけでええやん」はむしろ不良を増やす道をわざわざお考えなのです.御社の設備にあった溶解〜TiB2生成条件を特定できたとしても、相当な攪拌は必須だと思います.納得いかない方はぜひトライして、教えてください


一旦まとめ

微細化のために重要なのは、

・結晶核生成サイトのサイズ(Al₃Tiでは大きい)
→だからTiB₂を直接溶湯に入れられるTi-B

・結晶核生成サイトの安定性(Al₃Tiは安定しない)
→だからTiB₂を直接溶湯に入れられるTi-B

・TiB₂粒子の数と分散状態
・適度な溶存Ti

です.

存在していても、有効で活性な核生成サイトが少なければ微細化能力は限定的です.


なぜ同じ5Ti-1Bでも効き方が違うことがあるのか

ここで最初の疑問に戻ります.

実際に熱分析を行うと、同じTi単体でも5Ti-1Bでも、初晶過冷却が大きく改善するものと、あまり変化しないものがあります.原因として考えられるのは、TiB₂粒子の粒径です.同じ添加量でも、粒径が小さいほど粒子数は圧倒的に増えます.

また、TiB₂粒子が凝集していれば、分析上のTiやBの量は同じでも有効な核生成サイト数は大きく減少します.

さらに、TiB₂周囲のTi-rich環境や粒子表面状態も影響します.

つまり、同じ5Ti-1Bでも、核生成能力は大きく異なり得ます

当社の熱分析の出番

発光分光分析(OES)でTiやBの分析値を調べたことのある方がいらっしゃるかもしれません.しかし、ホウ素はOESでの分析精度が低いことが知られており、そもそも鋳造において重要なのは元素量ではありません.核生成のしやすさそのものです.熱分析装置がなければ調べることはできません.

初晶過冷却温度差(ΔTp)が小さいということは、それだけ多くの有効な核生成サイトが存在していることを意味します.

逆に、TiやBの分析値が規定量存在していても、初晶過冷却が大きいのであれば、その微細化材は十分に機能していない可能性があります.

当社のTi-Bは、熱分析により初晶過冷却温度差(ΔTp)の十分な減少(=結晶核生成能)を確認されたものです.つまり、単にTiやBの分析値を見るのではなく、実際に溶湯中で核生成が起こりやすくなっているかを評価しています.効かないかもしれない安いTi-Bとは違います

さて、連続熔解保持炉や残湯操業している場合、沈んだTiB₂を攪拌で再び浮かせればよいのでは?

というアイデアも浮かびますね

確かに単純な沈降だけであれば、再攪拌によってある程度回復する可能性があります.しかし現実には、粒子凝集やスラッジ化も進行しています.特に高Si合金では、TiB₂が再分散しても核生成能力そのものが低下している場合があります.そのため、攪拌だけで完全に元の微細化能力へ戻るとは限りません.バッチ炉では成立するかも知れませんが、その他の酸化物を沈静させる時間は必要です.連続溶解保持炉や残湯運用している場合は、他の不純物も巻き上げることになるため慎重に考えてください


おまけ

最適添加量について

熱分析を使用して初晶過冷却温度差(ΔTp)を確認しながら添加量を決定するのが一番です.

Ti添加なしのインゴットを使用して、バッチ毎に(例えば)Ti濃度0.04%、0.05w%、0.06w%...になるようにTi-Bを添加して、都度 熱分析をしてください.効果がサチりつつある〜サチっている範囲でコストや操業性も考えて納得できる気に入った添加量にされるといいです.

(参考)
Effect of grain refining and Sr-modification interactions on the impact toughness of Al–Si–Mg cast alloys
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0261306913009564

この文献では、A356.2(AC4CH相当)では以下が最適割合としたようです

Ti:0.06% 〜 0.08%
B:0.01% 〜 0.02%

当社が実施した現場での熱分析でも同じ結論です.0.08w%添加(Ti量で計算)して0.05〜0.08w%で運用するのが良いと考えています


TiB₂による溶湯清浄化効果

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なぜ5Ti-1Bは5対1なのか