『Campbellの鋳造10則』を読んでみた その3
John Campbell(キャンベル)教授の著書レビューの続きです.
Campbell氏は英国の鋳造研究者で、その著書『Castings Practice: The 10 Rules of Castings』は、北米やインドを中心に鋳造技術者や現場エンジニアの間で広く読まれていて、鋳造技術の「バイブル」と呼ばれることもあるそうです.今回、初版を入手して読んでみました、の第三回です
ルール5 Avoid core blows コアブローを防ぐ
コアブローは単なるガス欠陥ではない
鋳造現場では「コアブロー」と聞くと、中子から発生したガスが孔を作る現象と説明されることがほとんどです.しかしCampbellは、Core BlowはRule 4で説明したBubble Damageの一種であると述べています.つまり、より大きな問題は「ガス孔」ではなく、「気泡が凝固前の溶湯に残す傷跡」にあるという考え方です.
中子は大量のガスを発生する
鋳込みが始まると、中子は急激に加熱されます.その結果、バインダーや水分、揮発成分が大量のガスになります.通常はコアプリントやベントを通って外部へ排出されますが、排気が追いつかないと中子内部の圧力が上昇し、ついにはガス圧が溶湯圧を上回ります.
この瞬間、大きな気泡が溶湯中へ吹き出します.これがCore Blowですが、この説明は当たり前な気がします.
本当の問題はBubble Trail
気泡は浮力によって上昇しますが、その表面は酸化膜で覆われています.上昇する過程で酸化膜が引き延ばされ、気泡の後ろには長い酸化膜の尾が残ります.この尾がBubble Trailであり、その正体は長いbifilmです.つまり、気泡が最終的に鋳物表面から抜けてしまっても、その通り道は鋳物内部に欠陥として残るとのこと
なぜリーク不良になるのか
Core BlowでできたBubble Trailは、中子周辺から鋳物表面まで連続した未接合界面になることがあります.そのため、水路や油路を持つ鋳物では、そのまま漏れ経路となりやすくなります.
Campbellは、Core Blowが漏れ不良を起こしやすい理由は、単なるガス孔ではなく、このBubble Trailが形成されるためだと説明しています.
Core Blowは一度では終わらない
さらに厄介なのは、一つ目の気泡が通ったBubble Trailを、二つ目、三つ目の気泡も通ることです.すると酸化膜は何層にも重なり、Campbellの表現では「厚く、革のような(leathery)」酸化膜へ成長します.(加工面に現れたそれを見たことがある気がします)
これがCore Blowによる欠陥が大きくなりやすく、漏れや割れが発生しやすい理由です.
砂型も同じ問題を起こす
「Core Blow」という名称ですが、Campbellは砂型も同じ現象を起こすと指摘しています.砂型のバインダーからも大量のガスが発生するため、ガスの逃げ道が不足すれば鋳物内部へ吹き込みます.
つまり、問題は中子だけではなく、鋳型全体のガス排出設計にあります.
現場でできる対策
Campbellが推奨する対策は次のとおりです.
・ガス発生の少ないバインダーを使用する
・中子の通気性を高める
・コアプリントや中子内部にベントを設ける
・ガスはできるだけ上方向へ逃がす
・粘土系補修材の使用を避ける
・金属静圧を早く高めるため、適切な速度で鋳型を充填する
まとめ
Rule 5はCore BlowもBubble Damageであり、真の欠陥は気泡そのものではなくBubble Trail(長いbifilm)であるということでした.
従来は「ガス欠陥」と一括りにされてきた現象も、Campbellの理論では「気泡が残した酸化膜欠陥」として理解できるということのようです.Rule 4とRule 5を合わせて読むと、「外部から巻き込んだ空気」も「中子から発生したガス」も、最終的には同じBubble Trailを形成するという、一貫した理解で済みます.
Rule 4と違うのはここ.押湯で静圧をかけられればCore Blowを抑えられるかもしれないことです
コア内のガス圧が溶湯の圧力より高くなると、その結果、気泡が溶湯中へ強制的に押し出されます.文字通り「吹き出されて」生まれますので、こうしてできる気泡は大きく、浮力も高いため、金属中を上昇しながら酸化した気泡トレイル(Bubble Trail)を航跡として残します.
発生タイミングによる欠陥の違い
コアの気泡が発生するタイミングが、鋳物中にできる欠陥の種類を決定する
凝固前に気泡が離脱する場合(比較的厚肉部)
気泡が繰り返し鋳物表面に到達し、酸化物の皮膜が幾重にも積み重なる → 「エクスフォリエーション欠陥」(パイ生地のような多層酸化膜)
より一般的なケース
コアが温まり内圧を蓄積するまでに時間がかかるため、その間にある程度の凝固が進行する → 気泡がようやく押し出される頃には、すでに凝固した層の下に収まる
本書では図も多用して説明されていますので、イメージしにくい場合は購入して参照されると良いと思います
最も簡単で完全な解決策
速く充填する
コアを迅速に溶湯で覆い、金属内の圧力をコア内部で発生する圧力より常に高く保てれば、気泡形成は抑制される.したがって単純に鋳型充填を速くすることが、しばしば迅速かつ完全な解決策となる.
静水圧を高めるための追加のあがり設置には注意が必要
あがりの容積が大きいと、それを満たすための圧力上昇の遅れのために効果が得られない.やたらにつけるべきではないと言ってます
原文がなぜかちょっとわかりにくいんですが、、、
Campbell教授の考え方に共通しているのは、「従来の設計だから」という理由ではなく、それぞれの湯道・押湯・ウェル・オーバーフローに明確な役割があるかどうかを流体力学や凝固理論から検証する姿勢です.必要なものは残し、不要なものは排除するという考え方が、本書全体を通して一貫しています.
AIイメージです
さて、読解が困難になってきましたが、用語の違いが原因になってそうです.
わかりました.原文でRiserは「あがり」ではないみたいです.本書ではFeederが「あがり」であり、Feedingが「押湯」の意味で使われてますね
用語の定義の部分ですので、そのまま引用させて頂きます.
こう書いてます
まずはFillingとFeedingの違い
Before getting launched into this section, we need to define some terms. There is widespread confusion in parts of the casting industry between the concepts of filling and feeding of castings. It is essential to separate these two concepts.
鋳造業界では、Filling(充填) と Feeding(押湯補給・補給) という概念が混同されていることが少なくありません.しかし、この二つは明確に区別しなければなりません.
Filling is self-evidently the short period during the pour, and refers to the filling of the filling channels themselves and the filling of the mould cavity. This may only last seconds or minutes.
Filling(充填) とは、その名のとおり、注湯時のごく短い時間に起こる現象であり、湯道系(ランナーやゲートなど)の充填と、鋳型キャビティへの溶湯の充填を指します.この工程は通常、数秒から数分で終了します.
Feeding is the long, slow process that is required during the contraction of the liquid that takes place on freezing. This process takes minutes or hours depending on the size of the casting.
一方、Feeding(押湯補給) とは、凝固時に液体金属が体積収縮するため、その収縮分を補う目的で溶湯を供給し続ける、長時間にわたるゆっくりとした過程です.この工程は鋳物の大きさにもよりますが、数分から数時間続くことがあります.
「あがり」のことを「Feeder」と書いてます.Feeding=凝固収縮分の溶湯を補給すること.
それから、FeederとRiserの違い
The author reserves the name riser for the special kind of feeder that is connected to the side of
the casting via a slot gate, and in which metal rises up at the same time as it rises in the mould cavity.
著者は、スロットゲートを介して鋳物の側面に接続され、モールドキャビティ内で溶湯が上昇するのと同時に溶湯が上昇していく特別な種類の押湯(Feeder)に対してのみ、「ライザー(Riser)」という名称を限定して使用しています。
他に、低圧鋳造におけるストーク(Stalk)のことを、本書の中ではRiser Tubeと書いてました.Riser=あがりだと思い込んでいました(但し、一般的な冶金用語ではRiser=あがりです).本書では、Feeding(凝固収縮分の補給)をするためのものということで、あがりをFeederと言いたいようです.
充填(Filling)と補給(Feeding)は別に考えた方が良いという指摘は、当社でも技術指導でお伝えしていることですので、よくわかります.
原文に挑戦される方は、この点に気をつけて読んでみてください.図がふんだんにに使われていますので、理解が深まると思います
ルール6 引け巣・収縮欠陥を防ぐ Avoid shrinkage damage
引け巣を防ぐ ― 「湯を入れる(Filling)」と「湯を補給する(Feeding)」は全く別の話
Rule 5の中で調べた専門用語の違いが、ここで説明されていました(汗
一般的な鋳造技術では、「あがり(Feeder)を大きくすれば引け巣は防げる」と考えられがちですが、「そんなに単純ではない」と述べています.改めて言われなくても、単純ではないと知ってますね
「Filling」と「Feeding」は全く違う
Campbell教授は最初に、この2つの言葉を混同してはいけないと強調しています.前述の内容です
Filling(充填)
鋳型へ溶湯を流し込み、湯道や鋳型を満たす工程です.これは数秒~数分で終わります.
Feeding(給湯)
一方、Feedingとは凝固中に体積収縮する金属へ、新しい溶湯を補給する工程です.こちらは数分から数時間続くこともあります.
つまり、
充填(Filling)が終わってからが、本当の給湯(Feeding)の始まりだそうで、この2つを分けて考えることが重要だと述べています.
アルミは約7%収縮する
液体のアルミは凝固すると約7%体積が減少します.その不足分を補うために押湯(Feeder)が必要になります.
しかしCampbell教授は、あがりは単なる「溶湯タンク」ではないと説明しています.
押湯には意外な役割がある
押湯の役割は溶湯を供給するだけではありません.
・bifilm(二層酸化膜)が開くことを抑える
という重要な役割も担っています.
つまり、
あがりは鋳物内部を加圧し続ける装置でもあるという指摘です
引け巣より怖いのはbifilm
ここがCampbell理論らしいところです.一般には、「引け巣=給湯不足」と考えますが、しかしCampbell教授は、引け巣ができる過程では、もともと存在していたbifilmが開き、微細ポロシティになると説明しています.つまり、その内部にはbifilmが存在している可能性が高いという考え方です.よく訪問先で見かける、不良カゴのなかの「ス」はこれですね.スに見えるけど違う、と
あがりを大きくすれば良いわけではない
ではあがりをどんどん大きくすれば良いのでしょうか.Campbell教授は「No」と答えています.押湯効果が小さすぎれば当然引け巣が発生します.
静水圧を高める目的だけで余分なあがりを設けることには注意が必要であり、その理由としてCampbell教授は「あがりを満たすために圧力の立ち上がりが遅れる」ことを挙げています.使用する溶湯量も増えますし、高さ方向で静水圧は決まりますので、あがりを高くするには注湯口も高くなければなりません
P=ρgh
P:静水圧(Pa)
ρ:溶湯の密度(kg/m³)
g:重力加速度(9.81 m/s²)
h:液面から測定点までの高さ(m)
押湯ルール(Feeding Rule)も紹介されてます
Rule 1. Do not feed(unless necessary)
必要が無ければむやみにあがり(押湯)をつけるな
Rule 2. Heat-transfer requirement(要件)
フィードパスが切れたら押湯にならない.つまり鋳物より先に固まってはいけない
Rule 3. Mass-transfer (Volume) requirement
押湯が最後まで液体でも、量が足りなければ意味がない、と
Rule 4. Junction requirement
押し湯と鋳物の繋ぎ目の欠陥(押湯引巣)はあがりの中につくる
Rule 5. Feed path requirement
押湯から収縮部まで、最後まで液体金属が流れる「道(feed path)」が必要
Rule 6. Pressure gradient requirement
圧力勾配(収縮負圧と静水圧など)が不足すると内部ポロシティに
Rule 7. Feeding distance requirement
押湯からの給湯距離には上限があるが、溶湯が良質なら実質無限
詳細は本書にてご確認を.
簡易なHeuvers(ホイバース)の内接円法、そしてLewis and Ransing(1998)による内接円法の修正版について触れ、それをモジュラス勾配法(modulus gradient technique)と呼んでいます.これはChvorinov(チョボリノフ)の凝固法則を使った引け巣のできない押湯・方案設計法とのことです
他にもMurat Tiryakioglu(ムラト・ティリヤキオール)のThermal Centreという考え方も紹介されています.トルコ出身の鋳造、材料工学の研究者です.当社のはこの考え方に近いですね.押湯を含めた方案設計の考え方です.
Pelliniの法則をアルミに当てはめると
Pelliniの法則(Pellini's feeding-distance rule)は、鋼鋳物の板状部について、押湯からどこまで健全に給湯できるかを板厚 T で表した経験則です.押湯がどこまで溶湯を補給できるかには限界がある(そりゃそうです)
鋼ではLd=4.5Tが経験則として給湯距離を計算することがあるが、
Ld:距離
T:厚さ
AC1AやAC4CH(相当)、2000系では15Tは可能
S. Jacob、M. Drouzyの研究(1974年)
“Jacob and Drouzy (1974) found long feeding distances, greater than 15T, for the relatively long-freezing-range aluminium alloys Al-4Cu and Al-7Si-0.5Mg, providing the feeder is correctly sized. ”
※Jacob S and Drouzy M; 1974 Int Foundry Congress 41, Liège, Belgium. Paper 6.
Campbell氏の研究によると、bifilmがいない溶湯であればであれば、実質的に押湯距離は無限と考えられる
“(In long-freezing-range alloys, solidification shrinkage is accommodated by both liquid feeding and solid feeding.※ブログ筆者による要約)
It is for this reason that the higher conductivity, and lower strength alloys of Al and Cu can be characterized by practically infinite feeding distances, particularly if the alloys are relatively free from bifilms.”
Solid Feeding
鋼では、凝固が始まるとすぐに丈夫な凝固殻ができます.そのため収縮すると内部に隙間ができようとします.その隙間を埋める方法は、押湯から液体金属を流し込むことしかありません.これが普通のfeedingです.
一方のアルミ合金では、固液共存状態(マッシーゾーン)が厚く存在します.完全な液体ではない、完全な固体でもないという柔らかい状態になります。そのため、鋳物全体が動くことで収縮を吸収できます.Campbellはこれをsolid feedingと呼んでいます.
(Rule. 6はAIイラストはありません)
まとめ
・bifilmのない良質な溶湯を準備する→押湯も効く、bifilmも開かない、つまり良品の幅が広がる
・型内で酸化膜、bifilmを作らない
ことが最も重要
もし溶湯品質が悪ければ、あがり(押湯)は引け巣を防ぐ装置ではあっても、bifilmそのものを消すことはできません.溶湯が悪ければbifilmは開いてしまい引け巣と間違えられて対策を誤りこじらせるだけです.
その意味でも、Rule1・Rule2・Rule6はそれぞれ独立したルールではなく、「良い溶湯を、傷つけずに鋳込み、適切に給湯する」という一連の考え方として理解することが大切だと感じました.
そして、bifilm量を指数化するには当社の熱分析装置が最適だろうなと思います.理由は3つ(他社に真似されるのでここでは書けません.ご容赦ください.分かりやすっぽさとかそんな瑣末なことではないです.)